コンセプトは全く異なるが、最終的に出力されるイメージが、現在制作中のイメージと重なった為、現物を確認しに東京駅までフミ散歩。空間演出も含め、とても素敵な展示でした。お勧め!
株式会社リクルートホールディングスが運営するBUGでは、2024年10月30日(水)より、吉田志穂個展「印刷と幽霊」を開催します。
吉田はこれまで、アナログとデジタルを往還させる写真作品の制作、空間全体を使ったインスタレーションにて独自の風景を築き上げてきました。 第11回写真「1_WALL」*グランプリ受賞(2014)、その後第11回 shiseido art egg入選(2017)、Prix Pictet Japan Award 2017ファイナリスト、第46回木村伊兵衛写真賞(2020+2021年度)など数々受賞してきた写真家です。
本展で吉田は、これまでとは全く異なるアプローチで新作を発表します。写真の現像やプリント、イメージの重ね合わせなどを手作業で行ってきた吉田が、オフセット印刷機で大量に複製したイメージを用いて空間を構成します。
写真や印刷は、機械を通してはじめてイメージが可視化されるともいえます。時折、機械は人間が意図したイメージから外れ、肉眼で捉えることができないものも表出させることがあります。吉田は不可視の存在への探究やイメージの氾濫から、実態のないものの現出に挑みます。
機械と手を組み、予期せぬエラーに身を委ねた時、イメージはどのように崩れ、何が現れるのでしょうか。日々大量のイメージを目にする私たちに、見えるもの/見えないものとは何かを改めて問いかけ、その境界線を探ろうと試みます。
展覧会名に込められた意味
吉田はこれまで写真と向き合う中で、“ないようである、あるようでない”という感覚を経験してきました。この感覚を表す言葉が、展覧会名に含まれる「幽霊」です。カメラは目に見えない人柄や気配までをも写し取ったり、心霊写真の存在や“写真を撮られると魂を抜かれる”といった迷信を生んできました。写真によって、肉眼では見えない光や物体の軌道、実体がないものを実感させられることもあるでしょう。カメラやスマートフォンが普及してからは、より簡単に感情の動きや残したいと思った瞬間を写真に収められるようになりました。この感覚はある面では消え、ある面ではさらに顕著に、かつてあった光景や当時の感覚を生々しく甦らせます。
吉田は写真集『測量|山』の制作現場にて、初めて印刷現場に立ち会いました。その際、無形のデータが一瞬にして手触り感のある紙へと変換され、高精細なイメージが高速で大量生産される「印刷」に惹かれました。
本展では、幽霊──不可視で掴みどころのない、曖昧なもの──の現出を試みます。レンズ越しにしか捉えられない、実体があるようでない不確かさは、印刷機を通すことでどのような輪郭を持つのでしょうか。
新たな写真表現への挑戦
本展の展示作品は全て新作です。吉田が撮影した数枚の写真を数千枚に印刷し、それを起点にインスタレーションを展開します。
印刷には、チラシや書籍などの商業印刷に適した「オフセット印刷」という手法を活用しました。これは、印刷内容をアルミ板に焼き付けた「版」を用いることで、短時間かつ大部数の印刷を実現する手法です。大量の印刷物と化した吉田の作品は、床に積み上げられ、無造作に貼り付けられるなど、まるで写真ではないものかのように振る舞います。
吉田は本来の機械の役割を超えた実験をこれまでの制作においても行い、写真表現の可能性を拡張してきました。本作ではカメラのレンズや印刷機のエラーを巻き込み、新たな写真表現を探究します。故意に仕掛けたエラーは吉田の手を離れ、インキの滲みや擦れとなって現れます。染み出す痕跡に一つとして同じ表情はありません。エラーを仕込まれた印刷物が氾濫する展示空間で、かつてない光景を目撃することとなるでしょう。
会期:2024年10月30日(水)– 12月1日(日)
時間:11:00 — 19:00 (11/2(土)、11/30(土)はイベント開催のため18時閉館)
休館日:火曜(11月10日(日)は臨時休館)
入場料:無料
主催:BUG
協力:Yumiko Chiba Associates、LIVE ART BOOKS